未来からのマスク2枚
私は公園を散歩した。
街の外れにある小さな公園だ。
普段、こんな朝早くには人は誰もいない。
ところが、今朝はベンチに老人が座っていた。
何の特徴も、特性もない老人、おじいさんだ。
私がそのベンチを黙って通り過ぎようとすると、その老人が話しかけた。
「あの、そこの人、学生さんでしょうか」
「はい、なんでしょうか」
私はその老人をよく見てみることにした。
目は少しタレ目、育ちはよさそうだ、ただなんとなくずる賢い感じがした。
「これ、うけとってもらえませんか」
老人の手には使い古されたマスクが2枚。
「それは、なんですか?」
「高級マスクです」
「すみません、僕、急いでるので」
私はその場をすぐに立ち去ろうと思った。
このじいさん、ヤバそうだ。
「そう言わないで、受け取ってください」
「何のためですか」
「人類を救うためです」
「おじいさん、大丈夫。家はどこですか」
「何をかくそう、私は総理大臣です。」
やばい、やっぱり、危ない爺さんや。
「私は未来からやってきました」
「はあ、未来からやってきて、何でおじいさんなんですか」
「わかりません。何かの不都合です」
私は逃げようかと思った。
「信じてください、私は過去の過ちを正すためにやってきたのです」
「過去の過ちってなんですか」
「忖度です」
私は馬鹿らしくなって来たので走り出して逃げた。
「マスク2枚、今日あなたがしてないと、人類は滅びるのです」
私の後ろから、じいさんの声が何度も聞こえ、やがてフェードアウトした。
その日、私は急に体調がおかしくなり、病院に入院した。
忖度って何のことだ、なんでマスク2枚なのだ、記憶がなくなる死の直前にふと思った。
これがパンデミックのはじまりの日だった。
可愛い女の子と一時間一緒にいると、一分しか経っていないように思える。
熱いストーブの上に一分座らせられたら、どんな一時間よりも長いはずだ。
相対性とはそれである。
- アインシュタイン -
参考サイト
相対性理論
アルベルト・アインスタイン
石原純訳
無解行末那
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