タイ・ミャンマー国境・削減される国際支援 難民キャンプ病院の現場 レポーター 伊藤 あかり 支援団体 IV‐Thailand (アイブイタイランド)スタッフ


タイ・ミャンマー国境沿いには9つの難民キャンプがあります。母国での内戦や民族対立から逃れてきた約10万人の人々が暮らしています。

左:治療にあたるゴン先生

左:治療にあたるゴン先生

病院内の様子:トタン屋根。ベッドは板状。マットレスは無い。

病院内の様子:トタン屋根。ベッドは板状。マットレスは無い。

難民キャンプの家々

難民キャンプの家々

ゴン先生(右から3人目)とIV-Thailandスタッフ

ゴン先生(右から3人目)とIV-Thailandスタッフ

バンコクから国境の町へ。約36000人が暮らす最大のキャンプ
バンコクからバスと車を乗り継ぎ約11時間。北西部の町メーソートを抜けると、山の裾野を切り開いた土地に、竹やトタン屋根の家々が集まるエリアが見えてきます。ここが国境最大のメラ難民キャンプです。その広大さから一つの町のようですが、中へ入ると深い閉塞感が漂っていました。
住民は移動や就労が制限され、原則キャンプの外へ出ることはできません。住民の約3割を占める29歳以下の若者たちは、キャンプ内の学校を卒業してもタイ国内の正式な学歴として認められず、進学や就労の道が閉ざされています。

現金収入が限られる住民にとって、無料で診療できるキャンプ内の病院は唯一の医療拠点です。しかし今、その医療体制が運営の危機に直面しています。
(※私たちアイブイタイランド〈別欄で紹介〉は2026年4月からこの病院への支援活動を開始しました)

老朽化する病院設備と多様な医療ニーズ
病院には、毎日約200人の患者が訪れ、あらゆる治療を行っています。喘息やデング熱などの季節病から、慢性疾患、うつ病や薬物依存、さらには本国の戦闘による負傷者などです。しかし、医療環境は限界を迎えています。診察室の床は板張りで隙間が目立ち、パソコンや検査機器などの設備も限られています。この状況下で、わずか2名の医師(2026年3月時点)がすべての診療科目に対応しています。

突然の資金カット‐急減した国際支援
こうした無償の医療活動は、これまで国連機関やタイを含む各国の政府などからの支援で行われてきました。しかし、トランプ政権以降、米国国際開発庁(USAID)の予算が大幅に削減されたことや、世界各地で新たな紛争が多発する中での国際的な関心の低下により、深刻な活動資金不足に陥っています。

その影響は大きく、医療スタッフは400名から236名へと40%削減。残ったスタッフの手当も県の法的最低賃金(日給350バーツ)以下に落ち込み、数ヶ月の遅配が常態化。米や油などの食料配給も完全に停止しました。

現場の奮闘
圧倒的な人手不足に直面する病院を支援するため、アイブイタイランドは現地への医師派遣を開始しました。自身もミャンマー人避難民である医師のゴン先生は、こう語ります。
「キャンプに暮らす人々は様々な背景や民族的ルーツを持っていますが、彼らはみな社会から疎外された人々です。彼らがこの苦境を乗り越えるのを手助けできることに、やりがいを感じています。彼らに適切な治療を届けること。それが、医師である私の今の責任なのです」

難民キャンプの家々

難民キャンプの家々

現場で働く医療スタッフの多くもまた、ゴン先生と同じようにミャンマーから逃れてきた人々です。彼らは自らも厳しい生活の中にありながら、住民の命と尊厳を守るために日々尽力しています。

その勇気ある姿を目の当たりにし、強く感じたことがあります。それは、「過酷な環境で、彼らは住民のために人生を捧げている。では彼らのことは一体誰が支えるのだろう?」という問いでした。

私たちは今、医師を送り、医療を絶やさない活動を進めてきました。これは、単なる資金だけの支援ではありません。限界の中で命を繋ごうとするスタッフに、「あなたたちには共に支える人々がいる」というメッセージを送ることでもあると思うのです。

自立への歴史的転換
一方で、難民を取り巻く環境には自立に向けた新たな動きも始まっています。
タイ政府は2025年8月、国内の労働力不足解消と自立支援を目的に、キャンプ外での合法就労を認めたのです。地元主要紙が報じた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によると、すでに5500人以上の難民がタイ国内で雇用され、日系企業を含む建設業、農業、製造業で働き始めています。
長く支援されてきた彼らが、タイ経済を支える労働力へと変わりつつあります。

あたたかい皆様の支援を
彼らがタイ社会へ踏み出し始めたからこそ、今キャンプ内の健康・医療網の維持がさらに重要になっています。
アイブイタイランドは、この医療体制を守るための活動資金(募金)や、企業とのパートナーシップとしての参加を募っています。
3万バーツで1か月間、医師を派遣することができます。
金額の多少にかかわらず、皆さまからのご支援が現場の大きな助けとなります。

IV-Thailandの紹介
IV-Thailand(アイブイタイランド)は、世界10か国で紛争被害者の支援や平和教育を行う日本の国際協力NGOテラ・ルネッサンスのタイオフィスです。
タイ国内ではミャンマー国境沿いでの人道支援やタイの子どもたちへの教育奨学金の提供、そして世界の課題を伝える啓発活動などを展開しています。

IV-Thailandの活動について:https://www.iv-thailand.org/projects/
本件に関するお問い合わせ:IV-Thailand 伊藤あかり ito@terra-r.jp

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