バンコク都市伝説!ある不動産会社社長の死
第1話
明日は引越しの日だった。バンコクに住んで約1年の大田太郎の心はまだ落ち着かなかった。それは、早く新しいアパートの部屋で寝てみたいからだった。バンコクの小さな不動産会社、横綱不動産の社長である太郎、従業員はわずかタイ人が2名の小さな会社。本当ならば、タイ人をもっと雇わなくては、会社設立できないのだが、そこはアメージング・タイランド、なんとかなるのだ。
太郎は小柄で、太っている。子供の頃から、相撲部屋に入り、横綱になるのが夢だったが、身長が足りなかったために、プロの相撲取りになるのはあきらめた。得意技は猫騙し。まあ、猫騙しで横綱はしょせんむりな話ではあるのだが。
タイで不動産会社をやるのに、日本の宅建のような資格は必要ではない。そこで、きっと不動産なら儲かると思って会社を作った。でも、現実は厳しかった。すでに、タイには老舗の不動産会社がいくつかあり、金持ちの一流会社の駐在員や投資家は老舗の不動産会社で物件を探す。それゆえ、太郎は日本から現地採用で働く金を持ってない若い世代を対象に格安物件を紹介してなんとか会社をやりくりしてきた。
そして、太郎がタイに来て住んでいたのは、タイ人向けの小さな古いアパートだった。家賃は3000バーツ。間取りは日本のワンルームよりもさらに狭い。さらに、バスタブも温水シャワーさえもない。チャオプラヤー川の近くにあるアパートだった。こんなところに普通の日本人は住めそうにない。そんな古いアパートだった。こんなアパートに住んだ理由は、会社のオフィスの家賃を毎月払わなければならないからだった。オフィスはプラカノンのBTSのはずれにあった。こんなところには、お客さんは来ない。Webで宣伝し、自分が営業で動く、それが太郎の仕事スタイルだった。
太郎が引っ越すことになったきっかけは、同じアパートに住むタイ人たちからの騒音のクレームだった。毎日、朝と夕方になると、騒音がし、それが太郎が原因とわかったからだった。太郎は必ず朝と夕方に相撲の四股をふんで、体を鍛えることを子供のころからの習慣にしていた。木造の古いアパートで四股をふむと、全体に振動がつたわってしまうのだ。ある朝、ドアがノックするので開けると。アパートの住人と大家がそこにはいた。話合いの結果、新しい住まいがみつかったら、すぐに引越し、四股は二度とふまいない約束をした。
それ以来、太郎は仕事がてら、自分の新しい住まいとなるアパートを探していた。ある日、従業員のタイ人のレックが太郎に安くて良い条件のアパートが会社のすぐ近くにあると話した。太郎がその物件を見にいってみると、会社から歩いて10分ほどの運河の近くに、コンクリートでできたアパートがあった。開いている部屋は最上階の5階、階段を上がった目の前の部屋だった。ドアの上には、なにやら中国系のタイ人が以前は住んでいたのか、中国のお守りの御札のようなものがたくさん貼ってあった。しかし、太郎はそんなものはまったく気にしなかった。問題は四股を毎日ふんでも騒音にならないこと。さらに階段の登り降りが体を鍛えるのにはよいと判断した。しかも、家賃はい以前と同じ3000バーツだった。
一人暮らしで、家具などもほとんどない太郎の引越しは簡単だった。スーツケースに衣類を入れ、会社に行くのと同じように、新しい部屋に引っ越した。新しいアパートの入り口には管理人のおばさんがいた。名前はポン。イサーン出身で若いころは日本にいたことがあると言って、カタコトだが日本語を話せた。
引っ越したのは日曜日だった。オフイスが近いので、会社で仕事をしてもよかったのだが、その日は荷物がかたづくと午後から、近くを散歩することにした。運河沿いに歩いてみることにしたのだ。アパートを出て運河方向に歩くと市場があった。結構大きな市場、プラカノンマーケット。タイ語で市場はタラートと言う。市場には、さまざまな野菜や果物、魚や肉、そして生活雑貨など、タイ人の生活に必要なものはすべて安価でそろいそうだった。
太郎は市場の中をぶらぶらし、オンヌットへの橋がある船着場まで行くと、アパートにもどることにした。市場で好物であるモンキーバナナだけを買って帰ることにした。アパートの近くまで来ると、あるものが道端に捨ててあるのに気がついた。それはバナナと同じような色をした、古い扇風機だった。手にとってみるとさほど重くはない。ただ、古くなにやらプラスチックの土台の部分には奇妙な記号が描かれていた。タイ語ではない。他の外国語でもなかった。不思議な見たことのない文字。たまたま、扇風機が壊れて、新しいのを買わなければならなかったので、その古い扇風機は動く保証はんかったが部屋にもって帰ることにした。
アパートの入り口で管理人のポンおばさんと目が会い、手にしている扇風機をおばさんがみると、おばさんは何かに恐れるように話しかけた。
”気をつけてください。扇風機、寝るときは、使っちゃダメ、危ない、危ない”
”あ、これね。だいじょうぶ、マイペンライ クラップ”
さほど気にせず、ポンおばさんの注意も聞き流し、階段を登ろうとした。右手に扇風機、左手にはビニール袋に入ったモンキーバナナ。口の中にはモンキーバナナが入っていた。
”危ないよ、寝るときはつかわない。つけてねたら、死ぬよ”
死ぬと言われて、太郎はちょっと驚いたが、冗談だと思った。
”扇風機、寝るとき、とめて。危ない、死ぬよ。”
階段をのぼる太郎の背中越しに、管理人のおばさんは、”アンタライ”というタイ語を何度も繰り返していた。太郎は何やら不気味に思えてきたが、さほど気にかけなかった。それよりも、口の中のモンキーバナナはなかなかうまいと思った。
その夜、太郎は不気味な音に目が覚めた。何か野獣が唸ってるような音だった。目を開くと、部屋の中は何もかわったことはなかった。気のせいだと思ってまた眠った。
太郎は夢をみた。タイ人の男と女が言い争いをしていた。二人の顔はぼんやりとしていてわからない。突然、女が叫び声をあげて、扇風機で男の頭を殴った。男は一撃で倒れた。倒れた男に女は馬乗りになって、さらに男の顔を何度も扇風機で殴りつけた。太郎はその光景を見つめていた。すると、女は太郎のことに気が付き、手をとめて、微笑んだ。その不気味な微笑みに、太郎は驚いて目が覚めた。
なんだ、夢か。呪いの扇風機なんかあるはずない。そうつぶやいて目覚まし時計をみると出勤時間だった。太郎はシャワーを浴び、四股をふんでから、あわてて着替えて部屋のドアを飛び出た。
ポンおばさんが大きな音がしたので、階段を登ってみると階段の踊場には、足を踏み外して息絶えた太郎の死体と太郎が食べて投げ捨てたバナナの皮が落ちていた。
数日後、アパートのゴミ捨て場に、謎の文字が刻まれた扇風機が捨てられていた。
続く
この物語はすべて架空の内容です。登場する人物や出来事はすべて架空のもので存在しません。
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